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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

暗い船倉の中

       八月十日     -爾-



  ひろみの顔が憂鬱になってきた。


    「また、船に乗るの?怖いな!」


    「じゃあ!おばさんとこに残るか!」


 と、和子が冗談を言った。


 島国育ちでいながら、船酔いに悩まされる。


 なんともだらしない話ではあるが、海だけはまだまだ我々をそう簡単

には受け入れてくれそうもない。



  船に乗り込むと、団体客がいた。


 文字通り船は満杯だった。


 石垣島の学生らしく、スポーツ大会の帰りだという。


 その中に、ひろみの友達も何人かいたようで、なにやら楽しそうに話

込んでいたが、すぐ戻ってきた。



  二等の切符を持っていながら、二等船室に入られず、旅行者は暗い船倉

のような大きな部屋に詰め込まれた。


 船が出航して皆横になると、足の踏み場がない程満員状態。


 それでもまだ部屋に入れない人たちが通路に溢れている。


 我々も何とか三人分の場所をとり腰を降ろした。



  船倉の中には、ゴザのようなものが敷きつめられていて、数十組の毛布

と枕が配置されていたが、全ての人にはわたらなかった。


 入り口付近には脱ぎ散らされた靴が散在しており、暗い船倉は何か落

ち着かない雰囲気が漂っている。


 大阪から沖縄へくる船の中で一緒だった人も何組かいた。


 我々は入り口に近い、壁際に置かれた長いソファに落ち着いた。


    「こんな所に押し込めやがって!ひでぇもんだぜ!」


 と、誰かが叫んだ。


 この中に押し込められた人達には、不思議と連帯感のようなものが出

来つつあるのか、身動きの取れないところへ閉じ込められていることに嫌な

顔を仲間達には見せなかった。


 それどころか、雑魚寝を楽しんでいるグループもいた。

  

和子がソファの上で横になった為、ひろみと俺はソファの下で横になる。


 もうこの頃になると、ひろみも俺に少しずつ溶け込んできているよう

だった。


 横になる前、船酔いに効く薬を無理に飲ませた。


    「この薬は船酔いに効くんだ!これさえ飲めば酔わないんだか

       ら、飲みな!」
 薬には少し睡眠剤が入っているので、

それからのひろみは良く眠った。


 それとも例の通り、怖くて目を開けられないのか。


 そうだとしたら、辛抱強い子である。


 黒く日焼けした健康的な肌をしていて、性格的にはのんびり屋さんの

ひろみ。


    「こんな妹がいたら・・・・・。」


 そんな可愛い高校生。



  船は予定通り沖縄を出航し、沖縄県最南端?の島”石垣島”へと鼻先を

向けた。


 台風が過ぎ去ったせいか、薬のせいか、三人とも深い眠りに入ってい

た。


 少々疲れていたかも知れない。


 目をつぶるだけで、少し眠るだけで、明日の朝は待ちに待った最初の

目的地である石垣島へ到着する。


 長い究極の旅は、今始まったばかり!



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